慎一が仕事を终えて部屋に帰ってくると、リビングのローテーブルにノートマシンやテキストをひろげたまま、长い手足をラグのうえに投げだし、眠っている义崇がいた。
「あー、またこんな、散らかして……こら、义崇。起きろ」
「んー……」
揺り起こしても、义崇はうにゃうにゃ念って起きる様子がない。后期试験が近づいたとかで、ここしばらくは根を诘めていたようだ。もうしばらく寝かしてや
るか、どうしようか……と迷った慎一は、间続きのダイニングテーブルに夕饭の用意がなされているのに気がついた。残业になるとメールしておいたせいか、自
分のぶんはもう食べ终わったらしい。
「忙しいくせに。作らなくていいって言ったのに」
ため息をついて、床に积みあがり散らかったテキスト类を片づける。同居をはじめたとき、お互い仕事や勉强の都合もあるから、それぞれ自室を持とうと决めて借りた2LDKなのに、义崇はなぜかリビングでこういうことをする。
それが、寂しいからというのに気づかないわけではない。とんでもないくらいの甘えん坊な恋人は、暇さえあれば慎一にぺったりくっついている。子どものこ
ろ、しょっちゅう慎一の家に预けられていた彼の実家は共働きで、兄の义幸とも年が离れている。関西に越してからは键っ子状态で、「ただいま」を言っても
「おかえり」と応えられたことがほとんどない、と言っていた。
——だから、俺は慎ちゃんに、おかえりってちゃんと言いたいの。
真っ黒な目でじっと见つめながら言い张られたときに、うっかり、きゅんと来た。无言のまま头を抱えこみ、よしよしと头を抚でまわしたら、义崇は嬉しそうにじっとしていた。
「……よく寝るなあ。おーい、あまえたくーん」
呼びかけても起きることはなく、すうすうと眠っている义崇の颜は、どこか幼い。しゃがみこみ、頬をつついてやると、さすがの若さでつるつるの肌はやわらかい。
「おまえ、俺のいったいどこがいいんだろうなあ」
苦笑しながら、慎一はつぶやく。気持ちを疑うつもりはないが——そんなことしたらあとが怖いと、いいかげん学习した——やっぱり不思议だ。
子どものころ、あらぬ场面を见られてしまったせいで、义崇曰く『目覚めちゃった』のだそうだけれども、慎一以外の相手はすべて、女の子だったらしい。
きれい、かわいい、とよく义崇は言う。まあ、たしかに男にしては小ぎれいなほうだと自负しているけれど、容姿のうつくしさなら女の子のほうがずっと胜る
に决まっている。正直、ほとんど刷りこみに近い、子どもの初恋の思い出が、彼のなかでは美化されて、それを引きずっているんじゃないか、と思うことすらあ
る。
「俺、いつまで义崇にとって、かわいいのかねえ」
膝を抱えたまま、つんつんぷにぷにとまた頬をつついていると、その指が突然握られる。
「おわっ」
惊いてしりもちをつくと、腕を引っぱられて抱きしめられる。体势を立て直す暇もないまま、后头部を掴まれてキスされた。寝起きにしては浓厚で、ねっとり口のなかをかき回されたあと、尻を揉みくちゃにされひととおり堪能されて、ようやく解放される。
「おかえり、慎ちゃん」
「お、おう。ただいま」
慎一はあわてて逃げようとしたけれど、がっちり抱きしめてくる腕は强い。広い胸に颜を寄せると健やかな心音が闻こえ、ほっと身体の力を抜く慎一に、义崇はくすくす笑った。
「……慎ちゃんは、ずーっとかわいいよ」
「闻いてたのかよ」
「慎ちゃんの声は、闻き逃しませーん」
なんだかばつが悪く、目を逸らした慎一に、义崇はなおも言う。
「どこがって言うなら、そうやってちょっと自信ないとこも、俺のこと际限なくあまやかしてくれるとこも、俺のことすっごく好きなとこも、ぜんぶ好き」
大きな手に頬を包まれ、颜中にちゅっちゅっと音を立ててキスされる。くすぐったくなる唇と言叶に赤くなりながら、慎一は照れ隠しに额をごちんと突きあてる。
「う、うっせえばか! ばーかばーか!」
「焦ると口悪くなるとこも好き。かーわいいなあ、もう。んーっ」
今度のキスは长くて浓く、気づけばラグのうえで身体の位置が入れ替わっていた。シャツのボタンの隙间から长い指がもぐりこみ、くりくりと胸をいじられて、あまい息が漏れる。
「このエッチな身体も、好き。讯きたいなら、ぜんぶ教えてあげるね」
「い、いらな……」
「远虑しないで。ね?」
ふふっと笑った义崇は、慎一の赤らんだ頬をてろりと舐める。いらない、とかぶりを振っても闻いてもらえず、その夜ひと晩かけて、どこがどのようにかわいくて好きなのか、しつこくたっぷりと教えこまれ、慎一は脳から犯された気分にさせられ——。
「……やっぱ、なんか间违った気がする」
翌日も仕事だというのに、痛む腰をさすって泣きを入れる隣で、あまったれのケダモノは満足そうに寝息を立てていた。